「ブルゴーニュワインとは、我々の想像を遥かに超え、理屈では到底理解できない代物である。」
当主ミクルスキ氏はそう語ります。
私はこの言葉に非常に感銘を受け、印象に残りました。
人を育てるようにブドウにもたっぷりと愛情を注ぎ、誠実にワイン造りを行うということで、土壌・気候などのあらゆる自然環境に加え、それを手助けする人の営みが、無限のパターンのワインを生む事を深く理解した生産者なのだと解釈しました。
そのような姿勢は一旦置いておきまして、ムルソーで多くの方に飲まれ(口コミされ)、そして口コミ評価の高いワインはどれだろうという客観的視点から調べてみた結果、コシュ・デュリやコント・ラフォンほどの感動は無いようでしたが、多くの方の好感を得ており、価格も考慮すれば候補に入れるべき優れた生産者だと感じました。
プルミエクリュももちろん素晴らしい評価でしたが、価格とのバランスも考えた時村名ワインの方がやや勝るのでは?と、勝手ながらに感じましたので、今回は村名ワインを選ばせていただきました。
歴史は浅く、ファーストヴィンテージは1992年。
元々プロラグビープレイヤーを目指したミクルスキ氏でしたが、(元プロボクシングプレイヤーの私は親近感を覚えてしまいます(笑))ワイン醸造家になる事を決意。
ボーヌのエコール・ヴィニコールにて、ワイン造りを習得後カリフォルニアのカレラ、そしてムルソーで叔父のピエール・ボワイヨ氏の元畑の管理を行い、その叔父の引退により畑を引き継ぎドメーヌ設立に至ったというわけです。
独特のボトルデザインも印象的で品質も高い彼のワインは、世界的に人気で日本に入る量も少ないため、手に入れにくいところが難点ではありますが、チャンスがあればぜひ味わいっていただきたいワインの一つだと感じています。
《ワイン名》 フランソワ ミクルスキ ムルソー
《価格》
【8000~11000円】
《ブドウ品種》シャルドネ
《ボディ》 ミディアム~フルボディ
《甘辛》 辛口
《産地》 フランス>ブルゴーニュ>ムルソー
《生産者》 フランソワ ミクルスキ
《特徴》
純粋さとエレガンスも持った
骨格あるムルソー
このワインの特徴は、美しい酸と背筋の通ったような凛としたミネラル感があるところで、豊潤な果実味と樽がよく効いたリッチなイメージの強いムルソーにおいて、そのようなスレンダーな質感からは、純粋さやエレガンスが感じられ、熟成を経る事で落ち着きある品質に成長していきます。
そのような品質になる理由をいくつか挙げましょう。
■上品さ、純粋さを追求■
ミクルスキ氏が求める品質は、ブルゴーニュらしい上品さと純粋さが感じられるもの。
そのような哲学の下、人を育てるような愛情を注ぐような誠実な気持ちで丁寧に栽培から醸造されるワインは、非常に雑味無く純粋であり、美しい酸とミネラルを持った上品さも感じられるムルソーを生んでいます。
■リュット・レゾネ■
化学肥料や農薬を極力使用しない減農薬農法(リュット・レゾネ)を実践することで健全な土壌が育ち、その土地の成分を吸い上げた上質なブドウが実ります。
■控えめの樽■
樽香が反映しやすい新樽の使用比率を20%以下にすることで、ブドウ本来の風味を感じやすくし、ほどよい樽のニュアンスも感じられるスタイルにしています。
【外観】
輝くレモンゴールド。
熟成が進むほど濃いゴールドに近づいていきます。
【香り】
シトラスやレモンなどのの生き生きとした果実香が広がり、白い花の華やかさに仄かな樽やアーモンドに蜜のニュアンスも感じられます。
熟成するほど果実香は円熟を感じる黄桃やアンズなどの熟した果実感が現れ、バターやナッツ類の香りも心地よく広がります。
【味わい】
レモンやグレープフルーツといった溌溂とした酸を持った果実味で、ほんのり蜜のニュアンスも感じられます。
ミネラル分も豊富で、凛と背筋の通ったような質感は雑味の無いピュアさも持っており、ナッツ類や白い花に果実の風味を残したエレガントな余韻が続きます。
熟成が進むほど果実味はパイナップルなどの熟した果実のニュアンスに変化していき、酸やミネラル分などの成分もワインに溶け合う事でなめらかさが増し、落ち着きと深みのある旨味を持った味わいになります。
ボリューム感と複雑味のある味わいは長い余韻があります。
《飲む時の適正温度》
【8℃~14℃】
冷やし気味にすれば酸味が際立ちエレガンス溢れる飲み口になります。
温度を上げるほどふくよかで複雑な風味の広がりある、秀逸な味わいを楽しめるでしょう。
※ワインを飲む時の適正温度については、
第11回【ワインの適正温度】
でも確認できます。
《飲み頃と当たり年》
【飲み頃】
ブドウ収穫年から5~20年
※一般的傾向や口コミから推測
【当たり年】
良いヴィンテージのワインほど飲み頃になるのが遅く、長期熟成にも向きます。
難しいヴィンテージほど比較的早くから楽しめ、飲み頃の期間は短くなる傾向です。
一般的にブルゴーニュ白のヴィンテージチャートは以下の通り。
5点 秀逸な年
4点 良い年
3点 平均的な年
2点 やや難しかった年
1点 難しかった年
0点 悪い年
1996年 5
1997年 3
1998年 2
1999年 3
2000年 3
2001年 3
2002年 4
2003年 2
2004年 4
2005年 4
2006年 3
2007年 4
2008年 4
2009年 3
2010年 5
2011年 4
2012年 3
2013年 4
2014年 5
2015年 3
2016年 4
2017年 5
《適正グラス》
【ふくらみのあるシャルドネグラス】
少し温度を上げることで広がる風味を楽しめますから、香りが取りやすく温度も少しずつ上がるように設計された、ふくらみのあるグラスを選ぶことをおすすめします。
※ワイングラスの選び方の知識は、
第13回【ワイングラスの特徴・選び方】
でも確認できます。
《相性のいい料理》
エスカルゴバター
地鶏のグリル
など、上質でコクのある味付けをした料理などと合わせることで、エレガントでボリューム感のある風味とコクの広がる優美なマリアージュを楽しめるでしょう。
※もう少し相性について知りたい方は、
第15回【ワインと料理との相性・マリアージュ】
でも確認できます。
《こんな場合におすすめ》
樽がよく効いてトロリとした果実実のパワー溢れるコッテリ系ムルソーという感じではなく、酸とミネラルも豊富なバランス型の品質です。
メイクアップされたグラマラスな女性というよりは、薄化粧のややスレンダーな女性的な印象を受けるワインであり、そのようなスレンダータイプが好みの方におすすめしたいワインです。
ボトルデザインも中々印象的でオシャレですから、プレゼントなどにも力を発揮してくれそうです。
《こんな場合には不適切!?》
おすすめの逆になりますが、樽がよく効いてトロリとした果実実のパワー溢れるコッテリ系ムルソーを求める方には細く感じてしまうかもしれません。
特に若い段階ではその傾向は強く出ていますから、注意が必要でしょう。
《飲んだ人の口コミ》
【悪い口コミ】
「樽を控えめにしてエレガンスを求める造りらしい。4年熟成の2012はバナナにミントの香りが支配的で樽は無い。まだまだ若すぎるのか酸とミネラルが主張してきて果実味は弱く感じ、苦味もあるね。ややコスパにも疑問が残る。」
「ムルソーっぽいのが飲みたかった~!!こりゃまだ硬くて酸とミネラルばっかりよ!!3年熟成2013。」
【良い口コミ】
「そんなに樽が強調されておらず、これなら刺身にだって合わせやすいね。4年目の2014、なかなか気に入った。」
「3年熟成の2015は柑橘類にリンゴのような爽やかさがある香りに、森林を思わせる植物の香り。しなやかな飲み口で厚みのある味わいですが透明感もあり、心地よい余韻が続きます。ミクルスキやっぱりいいな💛」
「6年熟成の2010からはなぜか懐かしさを感じる。メロンにレモンに少しのナッツ類と樽。味わいもなんだか田舎っぽいというか、温かさを感じさせるような優しさがある。決して派手ではないがこのような味わいに深い好感を抱いてしまうよ。」
「9年熟成の08はバターのような風味に熟した果実に蜜感があり複雑、コント・ラフォンのミネラリーでキリッとした印象とは違い、ボリューミーなムルソーという感じで美味しい。」
という皆様の声でした。
その他にもたくさんの口コミがありましたが、集計してみると
感動的!! 7%
美味しい 60%
普通 30%
良くない 3%
というニュアンスが伝わってくる結果でした。
感動を覚えるほどの評価を与える方は少ないにせよ、上質なワインに対する好印象な口コミが多い印象で、5年以内の若い段階ではミネラルや酸が目立ち、キレの良いワインが好みの方には好評ですが、リッチなムルソーを期待した方にはやや満足度の低い傾向がありました。
よって5年以上熟成する事で成分が落ち着き味わいは深まり、満足度は高くなるといった印象を持ちました。
コシュ・デュリやコント・ラフォンほどのポテンシャルはありませんが、1万前後の価格帯のムルソーの中では、トップクラスの品質と言えます。
以上です。
ミクルスキのボトルデザインは一目見ただけで記憶に残るようなインパクトがあるところも魅力だと思います。
歴史と品格あるブルゴーニュワインのエチケットは、やはりそのような品格を感じさせるデザインのものがほとんどですが、新鋭のドメーヌであるミクルスキ氏は「大切なのは中身なのであって、エチケットではない」という考えがそのようなデザインを生んだようです。
逆に目立って良い効果をもたらしているようにも思いますが(笑)。
そしてユベール・リニエは品格を感じさせるデザインでかっこいいと個人的に感じています。
さておき、そんな外見も中身も魅力的なこのムルソーは、きっと様々な場面での活躍が期待できるワインだと感じています。
あなたにとって善きワインとの出会いが多くなる事をお祈りしております。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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